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両国に見つけた生活空間効率最大のマンション住戸。住戸を消費者に提供した事業主としての品格も横綱級でした。

狭くても生活空間効率が横綱級

生活空間効率が高い住戸。限られた小さい面積で、最大限の生活有効スペースを作り出している居住性が高い間取りの住戸とします。一般的な3LDKマンションの間取りは、主に以下の2つのタイプに集約されます。開口部に対する住戸スパン(幅)が6メートル前後の細長い形です。

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現代のマンション事業は、どの会社でも上記同じような効率的間取り設計がされ、逆に私たち居住者は、生活に使用できないデッドスペースが多く含まれる、使い勝手が悪い住戸を選ばざるを得ないのが現状です。もし選んだ住戸がこのタイプの間取りでないのであれば、たまたまラッキーだったということ(関連記事)。

住戸の専有面積を十分な生活有効スペースに充て、勝手が悪いデッドスペースを極力減らせる間取りこそ、居住者の味方。つまり、生活のしやすさを考えた時に、70㎡あれば十分な広さとか、坪単価が安いとか、数字上では判断できない、実質的に使いやすい間取りこそが、居住者にとって大事な判断材料になります。

ファミリータイプのマンションとしては、70㎡ 3LDKが一般的な目安の間取りとされますが、今回紹介するマンション64㎡の住戸は、70㎡と同等の生活空間を実現した、まさに小さな空間でもファミリーでビッグに住める住戸なのです。

マンション概要

2棟からなります。写真の棟の裏にも6階12戸からなる別棟があります。

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イニシア両国
東京都墨田区石原2丁目17-12
都営大江戸線「両国」駅徒歩8分
JR総武線「両国」駅徒歩16分
12階45戸
分譲:コスモスイニシア
施工:佐藤工業
管理会社:大和ライフネクスト
用途地域:商業 / 準工業
築年月:2012年2月

現在売りに出されている64㎡ 3LDK東南角住戸の間取です(今回も夜な夜な作成しました)。

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徹底した空間効率を実現した要点は以下の3点。
1、 LDが死角なしの整形空間
2、 全居室が死角なしの整形空間
3、 死角を作らない全扉引き戸設定

以下はどこでも見る一般的な間取りタイプの一つです。よく比べてみたいと思います。

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LDが死角なしの整形空間

一般的な間取りは、LD保有畳数に、だいたいキッチン横の廊下のようなデッドスペース(物件によって異なるが2畳弱前後)まで含まれてしまいます(下図左)。f:id:murakoshi5:20180627230231j:plain一方、当物件の間取り(右)は、クローズドキッチンを採用し、キッチンをLDと分離した部屋にしたため、全くデッドスペースのない正方形に近い整形なLD空間になっています。

つまり、上記の2つの間取り、12.0畳と10.1畳では、生活に利用できる空間はほぼ同様の広さであると言えます。ちなみに70㎡、3LDKの一般的な間取り、ファミリータイプ物件のLD空間は、ダイニングテーブルと4つのチェア、ソファを置くためにおよそ12畳が必要目安とされているので、その目安を10畳という少ない空間で達成していることになります。「12畳が目安」という固定観念で部屋の広さを測らないようにしましょう。実際に体感してみると、デッドスペースがない10畳の空間は意外と広いことがわかります。

全居室が死角なしの整形空間

一般的な間取りの寝室(他、洋室)は、室内にマンションを支える柱が侵食している場合が多いです。f:id:murakoshi5:20180627230408j:plain一方、当物件は、柱に加えてクローゼットなども部屋に侵食せず、3部屋全てにおいてベッドや家具などを配置しやすい、整形の使い勝手が良い部屋の形を実現しています。柱が侵食している部屋は、部屋の使い勝手が悪いだけではありません。柱の分まで部屋の畳数に数えられてしまうので、10%程度、実際の有効畳数は目減りします。ですから、ここでも数字上で部屋の広さや使い勝手を判断しないようによく吟味したいところです。

以上、当物件の間取り64㎡の部屋は、LDで約1.8畳、寝室で0.5畳、計2.3畳、つまり換算すると3.8㎡分、一般的な70㎡の住戸と比較して生活空間スペースに多くの面積を充てられています。つまり生活有効面積だと、3.8㎡分差が縮まると言えます。更に、LD含めたすべての居室が完全な整形な形という、家具の配置などの部屋内部の使い勝手、住みやすさなど、数字では測れない生活価値が高い効率空間になっている事も、実質的な生活有効面積㎡数の差を縮めていると考えることもできます。

死角を作らない全扉引き戸設定

3つ目は、扉の仕様について。一般的な住戸の設定はドアノブが付いた開き扉が多いのですが、当物件は、LD、3つの居室すべての扉が引き戸設定になっています。f:id:murakoshi5:20180627230535j:plain

本来開き戸で生じるはずのドア軌跡分のデッドスペースを、引き戸にして消すことで、作業をするスペースや、家具を配置するバリエーションが増えたりと、空間の使い勝手を更に良くしています。限られたスペースだからこその考えられた仕様だと思います。

以上の主に3つの視点が、この間取りが専有面積を越えて効率的生活空間を創り出せる理由です。また、LDと隣の洋室を可動式ウォールドアで仕切っているため、家族人数の変遷に応じて、大型2LDKとしても利用できる柔軟設計が良いところでもあります。

高い生活空間効率を実現できた理由

もちろん、通常の一般的なマンションではできない、効率的な生活空間を実現できた、このマンションならではの理由があります。

ひとつは住戸開口部に対するワイドスパンの設計です。間取り図を見ると、LD含めた居室がバルコニー側に3部屋並んでいます。これは、8メートルほどのワイドスパンでないとできません。このワイドスパンが、キッチンをあえて別部屋に分離させる配置を可能にし、またクローゼットなども居室外に上手く収まることに一役買っています。要は、住戸空間が縦長から正方形に近づくほど、死角を少なくし、利便性の高い部屋や設備の設計ができるのです。

もう一つは、住戸を支える4隅柱型のアウトポール設計です。このマンションは、すべての柱を居室外に追いやり、居住者にとっての限られた専有面積を有効に使うことで、利便性の高い間取り設計を可能にしました。

では、こういった居住者目線の間取り設計が、なぜ普通の事業主にできないのでしょうか。

住戸のスパンに関しては、土地の幅が24メートルあった時に、通常の6メートスパンだと4戸できます。それが8メートルスパンだと3戸しかできません。極端な話ですが、それが収益拡大を目指した事業主都合の一番の理由です。柱型の設計についても、柱を住戸内に侵食させ、居住性を犠牲にすることは、事業主都合だけで考えれば、建物の共用廊下部分を削れるなど、効率的事業を支える空間利用になるものだからです。

高い生活空間効率を支えているのは、居住者目線での住戸設計にあったのです。

気になった点

まずマンションに関する点。
前面が片側2車線、東京と千葉をつなぐ蔵前橋通りです。

f:id:murakoshi5:20180627230715j:plainバスも頻繁に往来し、かなりの騒音があります。ただ前面南側、大通り幅員分の空間が抜けていて日当たりは良好なので、騒音や車の排気など大通り沿いの問題が気にならない方であれば、お勧めできます。

また、この住戸の東側(写真右)に古い小さな戸建てがあります。

f:id:murakoshi5:20180627230748j:plain将来的にマンションや高い建物が将来建つことが懸念材料としてあり、角住戸のメリットが享受できなくなる可能性があります。

最後に間取りですが、効率が良いといっても空間自体が狭いことに変わりはありません。イコール、生活有効スペース以外、空間の遊びのスペースはほとんど無いということです。例えば、LDと廊下が引き戸で、トイレがすぐ隣りあわせなので、トイレの音が個人的には気になる所です。

価格・相場

64.63㎡、10階、東南角、5,500万円(現在売出中)
63.19㎡、5階、方角不明、4,680万円(2015年当時リノシー調べ)

現在売りに出されているのは、眺望もよく、日当たりも抜群な、10階、東南角住戸です。正直僕が欲しいくらいです。@281万円(坪単価)ですが、述べてきたように、生活空間価値を考えた時には、70㎡級の3LDKと考えて@260万円と評しても良いのではというのが個人的な考えです。

最後に

私たちは、前提が隠されたもっともらしい数字や広告に踊らされて、広告宣伝費をたくさん使える会社の製品に目が行きがちです。僕はマンションを何度も買い替え、ようやく間違ったマンション選びをしていたことに気が付かされました。

この住戸の間取り、もう一度見てください。f:id:murakoshi5:20180627230112j:plain開口部に向けて3部屋を並べたワイドスパン。キッチンを隔離したことで実現したデッドスペースがないLD。4隅の柱を追い出した整形の形のすべての居室。これだけの3LDK住戸を64㎡で創ってしまうのですから本当に驚きです。

そしてこの住戸を創った「コスモスイニシア」というデベロッパー(関連記事)。

両国国技館の近所に建つこの「イニシア両国」の東南角住戸。この間取りをよくよく見て、生活空間効率が抜群!まさに両国だからこそ小さい横綱住戸だ!と舌を巻きました。しかしながら、事業主にとって非効率になっても、常に居住者目線を踏まえて間取りを考えつくす事業主の品格こそ横綱級であると、個人的に評してやみません。

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