4月から新築マンションモデルルームの多くが閉鎖され、中古市場も動きが鈍っています。この機会に、コロナショック前夜の主な駅の相場、主なマンションのリセールバリュー(RV)を振り返ります。※江東区湾岸エリアは除外しています。

コロナショック前夜における指標の前提

以下、首都圏新築マンションにおける10年間の価格推移です。

コロナショック前夜まで、大きく上がってきましたが、当然中古マンション相場も引っ張られてきました。

相場、RVを調査するにあたり、以下を前提としています。

相場、RVを調査する上での前提
・売出し期間、成約期間は、2019年10月~2020年3月
・物件の所在地は、江東5区(墨田、江東、葛飾、足立、江戸川)
※江東区の湾岸エリア(りんかい線、有楽町線、ゆりかもめ)は除外

・駅徒歩10分、築10年以内、60㎡以上の住戸を対象
・坪単価・価格は、検索サイト「SUUMO」にて検索した物件を、「レインズMarket Information」で成約が確認できた物件により算出

・リセールに用いた新築時の分譲価格は、すまいよみ保有の価格表と不動産サービスサイト「イエシル」を利用(一部目安)
リセールバリュー(RV;%)=(中古成約価格/新築時価格 ✕ 100)
・1坪=3.305㎡、70㎡=21.18坪として価格を算定

スムログの記事では、コロナショック前の同期間における各沿線、各駅の相場を定点観測にしてまとめていますので合わせてご参照ください。

主な駅、マンションのRV(%)

2020年3月までの半年間、成約物件のリセールバリュー(RV)について、同じ竣工年同士のマンションで比較しました。

1,価格が底値だった2012年竣工
2,上がりきっていた2017年竣工
3,同じく2018年竣工(19年)

2012年竣工マンションのRV

2012年に開業した東京スカイツリータウンを取り巻くように、両国、錦糸町、押上、曳舟が新築時より大きくRVを伸ばしている理由は、不動産相場の上昇に輪をかけて、東京スカイツリーエリアの人気度が大きく上がったこと、マンション人気が都心回帰に振り切れたことが大きいと考えます。

中古相場もこれだけ上昇しているわけですから、購入した人は、2012年から7年経ち、住宅ローンの残債を減らした上で相当な含み益になっているはずです。

東京スカイツリーエリアの恩恵を一番受けたのが曳舟です。直近で成約された2012年竣工「マークフロントタワー曳舟」は、143%という圧倒的なRVを記録しました。

マークフロントタワー曳舟
(曳舟駅徒歩5分)

板状のマンションでも、2014年竣工の「ブランズ曳舟」が、平均128%という高いRVで成約されています。

ブランズ曳舟
(曳舟駅徒歩6分)

「パークホームズ押上」は、徒歩10分でこのRVですから、押上の居住エリアとしての価値がどれだけ上がったのかがわかります。押上駅徒歩1分の2001年竣工「エスタガーデン」は、どこかの雑誌の首都圏マンションRVランキングで1位にもなっていました。

パークホームズ押上
(押上駅徒歩10分)

続いて錦糸町も、この10年で大きく相場を上げたエリアです。

「グランアルト錦糸町」は、直近の成約価格が新築分譲時より平均134%を記録。

グランアルト錦糸町
(錦糸町駅徒歩4分)

当時は、まだ錦糸町のイメージが前時代を若干引きずり、住宅を構える人気が確立していなかった時期です。同年に森下で竣工された「シティハウス東京森下」は、「グランアルト錦糸町」より若干高めの価格帯で分譲されていましたが、RVで大きな差がつき、現在の相場観は逆転しました。

シティハウス東京森下
(森下駅徒歩4分)

西大島の大規模物件「ザ・ミッドランドアベニュー」のRVは111%。「グランアルト錦糸町(RV134%)に対して20ポイント以上も劣りますが、当時は、錦糸町より、亀戸、西大島エリアが住宅地としての評価が高かった顕れです。

ザ・ミッドランドアベニュー
(西大島駅徒歩5分)

亀戸駅も徒歩6分で利用できる強みがあり、売り出されれば安定した価格で成約されていましたが、亀戸、西大島物件としては周辺と比べて相場以上の大きな唸りはありませんでした。「プラウドタワー亀戸クロス」によって亀戸の相場が大きく変わろうとしているところで、この4月を迎えています。

足立、葛飾エリアでは、人気が高い常磐線沿線。駅近の大手物件「パークホームズ綾瀬ステーションプレミア」が坪単価215万円で成約されましたが、その後、同等の条件で売り出された坪230万円ほどの部屋は、長い期間成約されていない状況が続いています。

パークホームズ綾瀬ステーションプレミア
(綾瀬駅徒歩4分)

綾瀬は、千代田線始発駅で交通利便性は高いのですが、人気では、千葉寄りの亀有に後塵を拝し、近年、最大手4社による再開発(予定含む)が進み、ファミリーの街として台頭しつつある金町にも押され気味です。

期間中の成約物件で、唯一100%を切ってしまった「クレストラフィーネ西葛西」は、7年住んで90%以上を維持しているわけですから、別に損しているわけではないのです。他のマンションが上がりすぎただけです。

そもそも、人が住み始めれば建物は中古になり、価格が下がっていくわけですが、過去7年間の新築マンション価格推移からわかる通り、中古市場もつられて上がり、どのマンションでも100%以上が当たり前になってしまいました。リセールバリューなる言葉がもてはやされることになった所以でしょう。

同マンションは、生活利便性が高い人気の北口徒歩4分という好立地で、当時そこそこの分譲価格でしたが、その後に竣工された「ザ・ガーデンズ西葛西」、「レジデントプレイス西葛西」など、大規模マンションなど多くの競合に晒されたこと、中央区や江東区、墨田区の都心隣接エリアへの都心回帰による人気に押され、分譲時より相場を上げることはできませんでした。

クレストラフィーネ西葛西
(西葛西駅徒歩4分)

2016年竣工の「ザ・ガーデンズ西葛西」は、徒歩8分ながら、最大手2社のJV(共同売主)による大規模物件、フロアごとに設置された24時間ゴミ置き場などで人気を集め、3年でRVは13%アップしました。

ザ・ガーデンズ西葛西
(西葛西駅徒歩8分)

意外と頑張っているのが、日暮里・舎人ライナー沿線ですね。もともとグロスは低いですが、過去10年において沿線には多くのマンションが建設され、イメージとしては、交通不毛の地から住宅地へと変貌を遂げています。

2017年竣工マンションのRV

2018年(19年)竣工マンションのRV

2017年、2018年は、既にマンションが最高値付近まで来ていた時代でしたが、2019年に向けて、この後更に上がり続けました。

特に、清澄白河、門前仲町周辺エリアは、新築が完売後、すぐに売り出せば10%近くプレミアが付くようなマンションもありました。特に個人的に感じたのが、江東5区においても「プラウド」ブランドの強さですね。この数年で、「清澄白河」「木場」「門前仲町」「東陽町」「越中島」「西葛西」と立て続けに竣工し、現在では「亀戸」「金町」が分譲中、今後は、「平井」「小岩」「瑞江」といったエリアの駅前再開発と合わせたマンション分譲が予定されています。

墨田区で明暗を分けたのが、同じ東武沿線の隣同士、曳舟と東向島です。既述の通り、押上、曳舟は大きく相場を上げましたが、東向島以東は、北千住を除き、まだ東京スカイツリー効果による沿線の魅力度向上策が十分に行き届いていないエリアになります。駅徒歩4分の「イニシア墨田」は、立地も間取りも良く、相場を押し上げるには十分なマンションでしたが、押上や曳舟をよそに、売り出されれば長期間成約に至らず、RVを落としました。

イニシア墨田
(東向島駅徒歩4分)

北千住は、「穴場の街」から「住みたい街」へ街のイメージが確立されつつある中において、直近で新築の分譲価格を一気に上げてきました。「パークホームズ北千住アドーア」の価格を見てびっくりしたものですが、驚きはそれで留まらず、完売後に仲介で売り出された部屋は、更に8%のプレミアが付いて成約されました。

パークホームズ北千住アドーア
(北千住駅徒歩5分)

名実ともに「人気の街」「住みたい街」になった北千住は、「千住ザ・タワー」が坪単価350万円前後でも程なく完売と、勢いを増しており、東京イーストエリア北部で横綱の地位を不動にしました。しばらく中古物件とは乖離があったのですが、2017年竣工、徒歩8分の「レーベン北千住フェリシスタワー」が10%以上のRVで成約され、中古相場も徐々に引き上げられています。

レーベン北千住FELISIS TOWER
(北千住駅徒歩8分)

この半年で相場を上げてきたのが平井でした。昨年の上半期は、「シティテラス平井」を中心に、在庫がだぶつき、売出しを何度も落とす場面が見られましたが、お隣の「プラウドタワー亀戸クロス」の価格が発表された頃からでしょうか、価格の割に交通利便性が高く環境も良い平井の良さが見直されてきたからだと私は思っていますが、直近では「シティテラス平井」とともに「ガーラ・レジデンス平井」が106%で決まるなど、100%以上のRVでの成約が見られるようになりました。

ガーラ・レジデンス平井
(平井駅徒歩4分)

全体的には、都心隣接の「江東、墨田」が2020年3月の最後まで相場を上げ続けた印象がある一方で、「足立、葛飾、江戸川」エリアについては、分譲後いったん中古になれば、多くのマンションでRVは低位で推移している実態がありました。

総評・コロナショック後に向けて

コロナショック後も、ひとまず落ち込み幅が相対的に少なくて住みそうなエリアは、やはり需要が高い人気エリア、すなわち、門前仲町、清澄白河を中心とした「深川エリア」、錦糸町、押上、曳舟を中心とした「東京スカイツリータウン一帯」、そして新横綱の「北千住」です。

コロナショックがなければ相場は間違いなく上がるであろうと思っていたこれからの街、現在は穴場とも言えるエリアとしては、街の整備、再開発が進む「金町」、「潮見」、「平井」、「小岩」を注目しています。

緊急事態宣言がされて後、人気が低めのエリアで分譲中の新築マンションが指値で契約できた(つまり値引きに応じてくれる)という話がチラホラ入ってきてました。

この時期にRVが厳しめのエリア物件を購入するのが良いかは個々の事情によっても判断が必要ですが、検討しやすくなってきているのは確かだと思いますので、新築、中古含めて、ダメ元で大胆な指値を入れてみるのもアリだと思います。

以上ですが、合わせて、上記竣工年以外の主なマンションのRVを一覧にしておきます。

最後に

2017、2018年に竣工したマンションの多くのRVが上がっているところを見ると、コロナショック前夜の2019年下半期の相場が、最も高い所まで来ていたことは疑う余地がないでしょう。現在、新築、中古共に、マンションの動きはほとんど止まっているように見えますが、今後は、私たち庶民でも素敵なマンションを少しでも安く手に入れられるようになることを願ってやみません。引き続き、相場を注視していきたいと思います。

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